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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)3450号 決定 1951年2月22日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人森井孫市の上告趣意第一点について。

原判決の挙げている証拠によれば、原判示第一、第二の事実認定を肯認することができる。しかるに、所論は、原判示第一事実は単に選挙運動員のみが集ってその内輪の者のみが協議と金員を受領分配したに止るものであって、選挙運動の準備若しくは前提行為であり、また、判示第二の事実は、被告人が友人井上祥光より多数立候補者の中から意中の人を問われ受働的に答えただけで投票方を依頼したものでないと主張するものである。されば、所論は、原判決の認定しない事実関係を前提として法令の誤解又は判例違反を主張し憲法三一条にも反するというのであるから、その前提において明らかに刑訴四〇五条に定める上告適法の事由に該当しない。

同第二点について。

原判示第二事実の認定が証拠上肯認できることは、前論点で述べたとおりである。所論は、原審の裁量に属する証拠の判断又は原審が適法に認めた証拠能力を争い結局被告人の唯一の自白を証拠として事実認定をした違法があるというのである。しかし、原判決が被告人の自白を唯一の証拠としたものでないことは多言を要しないから、結局所論は、名を憲法違反に藉り原審の訴訟手続違背を主張するに過ぎないものというべく、従って、明らかに上告適法の理由とはならない。

同第三点について。

しかし、原判決はその判文で明らかに説明しているとおり刑訴四〇〇条但書に従い被告事件につき更に判決をしたものであるから、原判決の審判手続には訴訟法上の違法は認められない。されば、所論憲法違反の主張はその前提を欠き明らかに上告適法の理由ではない。

同第四点について。

原判示第一事実の認定が証拠上肯認できることは論旨一点で説明したとおりである。所論は、原判決が適法に認めた証拠能力又は原審の裁量に属する証拠の判断を非難して証拠によらないで事実を認定した違法があるというのであるから、名を憲法違反に藉りて原判決の証拠上の違法を主張するものというべく、明らかに適法な上告理由ではない。

同第五点について。

しかし、本件起訴にかかる訴因は、第一、第二事実とも昭和二二年勅令第一号違反の事実であり、ただ、第一事実は同時に公職選挙法違反の訴因をも包含するものであることは本件起訴状就中その罪名並びに罰条の記載によって明らかである。されば、原判決が判示第一事実において起訴状記載の第一事実中の公職選挙法違反の事実を認定した外起訴状第一事実中の同勅令違反の事実と起訴状第二事実中の同勅令違反の事実の一部とを併せて一個の同勅令違反の犯罪事実を認定して、これを公職選挙法違反と同勅令違反の一所為数法の場合であるとしたからといって、何等訴因を変更したとはいえない。されば、所論憲法違反の主張は、その前提を欠き明らかに刑訴四〇五条に該当しない。

よって同四一四条、三八六条一項三号に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

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